老人ホームに入居して、ずっとなじまず、部屋に引きこもっていた母に、少し変化がありました。
私たちが想像するより、思うように日常生活が過ごせない高齢の方がいます。
スポーツクラブからの帰り道、シルバーカーを押している高齢の女性が電信柱に止まっていました。
「すいません。」
といったか言わないかわからないぐらいの小さな声で、いったんは
「あれっ?なんか、聞こえたような・・・・。」
と思いながら、通り過ぎてしまったのですが
「いや。やっぱり。」
「どうしました?」
と話しかけると、道を間違えたのか、シルバーカーを180度回転させてほしいということでした。逆方向に進みたいのに、どうしたらいいのかわからないという感じです。
どうやらこの女性、シルバーカーにつかまることによって、立ったり、歩いている様子。何かにつかまらないと、立っていられなそうな方です。
シルバーカーを180度、回転させるなんてことをしたら、転倒してしまうでしょう。
「すみませんが、どこかにつかまっていてください。」
と女性に電柱につかまってもらい、シルバーカーを180度回転させ、逆方向に置きました。
そして、電柱につかまっている女性をシルバーカーにつかまってもらうために、体を支えながら、シルバーカーに手がかかるようにサポートしました。
これ以上、あまりなれなれしくするのも、警戒されてしまうと思い、その場を去りました。
家に帰って、高齢になると本当に考えられないくらい、体が思うように動かなくなるのだなとしみじみ感じました。
ちょうど、私の母ぐらいの年齢の女性でした。
「母は、どうしているかな?」
と思い、入居している老人ホームへ再び、姉を誘い面会に行きました。
12月、今年最後に母の老人ホームに面会に行ってきました。
お互い家庭もあるので、できる限り月に一度は母の面会に行こうと、話し合っていました。お正月には、姉夫婦は義兄の故郷に帰ってしまうので姉と会うのは、今年は最後です。
私が運転する車の中、お互いの家庭の様子や母の思い出を話し、楽しい時間を過ごしました。
息子が地方に一人暮らしを始めて、夫婦二人になって、何を話せばいかわからず、あまり人と話す時間が、無くなっていた私にとって、貴重な時間です。
「少しは、老人ホームになじんでくれたかな?」
「この頃は、職員の人に、笑いかける時もあるらしいよ。」
こういう時、つくづく
「姉妹っていいな。」
と思います。
私には兄もいますが、母が入居する前に義姉がかなりストレスをためてしまったので、母の思い出話をするのは、気が引けます。
「よかれ」を押し付けない
「昔のような、母に戻ってほしい。」
と人間には、限りがあることを認識していなかった私です。その反省を交えて、
「自分の『よかれ』を押し付けない。」
と心に決め、母のありのままを受け止とめるつもりで、面会に行きました。
「いつも通りだろうな。」
と思って、母の部屋へ行きました。
ちょうど、おやつの時間でした。
入居している人たちが、集まっておやつを食べる談話室のようなところに母が、
「行く。」
と言い出したのです。
これには私も姉も、びっくりです。
今まで、面会に行くと、部屋に引きこもり、毛布にうずくまっていた母が、入居している方々の中に自分から
「行く。」
と言い出したのですから。
車いすを押して、母を談話室に連れて行き、私たちはサッと部屋へ戻りました。
ここから先は、母の世界です。
「どうしちゃったんだろうね。まあ、うれしいことだけど。」
「私たちが面会に来るまでの間に、何かきっかけがあったのかな。」
と私と姉は、予定外の母の行動に、うれしがります。
「なんか、気になるけど、私たちは部屋で待ってよう!」
「子供の公園デビューを思い出すわ~!」
なんて、話していました。
少し経ち、母が部屋に戻りたいといってきたので、車いすを押して、戻りました。
「こういう時間が、ちょっとでも増えてくれるといいな、でも、欲張らない。」
母に対しての、見方が変わってきた自分にも、
「少しは、成長したかな。」
と思えました。
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